一昨日行われた王座戦挑戦者決定トーナメント準々決勝にて、
この結果だけを見ると、タイトル予選での上位進出を新鮮に感じる村田六段を、
貫禄を見せた藤井竜王・名人が一蹴したような印象を抱いてしまいますが、実際は全く違いました。
村田六段が一旦は勝勢にまで持ち込んでからの大逆転劇。
中継を観戦していて、藤井竜王・名人をもってしても完全に勝敗が決したと思わせるような雰囲気だったので、
そこからの大逆転は、七冠という圧倒的な強さを改めて見せつけるものでした。
しかし、個人的に感銘を受けたのは、力尽きて大逆転負けを喫した村田六段にまつわるエピソードでした。
これまでの対戦成績は4戦4敗だったそうですが、
今回の対局にあたって「棋士人生を賭けて臨む」とまで明言していたのです。
その言葉通り、練りに練った独自の戦法を七冠にぶつけ、見事に土俵際まで押し込みました。
圧倒的な成績の藤井竜王・名人に牽引されている将棋界ですが、
早晩、行きつくところまで行った飽和状態に達することになるでしょう。
それ以降、積み上がっていくタイトル獲得数だけを数えていたのでは、
見る将熱も流石に下降に転じることになると思います。
見る将の立場からすると、今回の村田六段のように、藤井竜王・名人と対局する棋士が、
他の対局の準備をなおざりにしてしまうくらい、乾坤一擲の覚悟でぶつかっていく展開を期待してしまいます。
七冠側としても、相手がそれくらいの覚悟でぶつかってこないと、
そのうちに人間相手の対局へのモチベーションが湧かなくなってしまうのではないでしょうか。
半分腰が引けて、何が何でも勝ってやろうという姿勢が希薄な相手と勝負するのは面白くない筈です。
圧倒的な一強の時代がうまく継続するためには、挑戦する側の覚悟と矜恃が必須だと思います。
もっとも、他を犠牲にして七冠との対局に全勢力を注ぎ込めば、
生活のかかった自身の総合成績は振るわなくなる可能性が大いにあります。
逆に、勝ち目の薄い七冠との対局の方を捨て石にする方が合理的でしょう。
こういう損得勘定を超えたところにあるのが矜恃という訳ですが……。