池波正太郎の「剣客商売」が好きで、昔から何度も読み返しています。
今は、毎日トイレに滞在する際に細切れで読み進め中。
ストーリーが単純でわかり易いので、細切れでも大丈夫なのです。
「剣客商売」に限らず、この筆者の最大の特長が食事描写の巧みさ。
めちゃくちゃ美味そうで、卓越したものがあります。
「包丁ごよみ」という、剣客商売の作中に登場する料理を再現したレシピ+写真集風の文庫本があるのですが、
これもなかなかの読み応え(見応え)です。
話の内容としては、無双の腕前を持つ秋山小兵衛による勧善懲悪が基本なのですが、
「るろうに剣心」も、このパターンでいいのになと常々思っています。
「るろうに剣心」は、どんどん強い敵が出てくる少年誌フォーマットを継続していますが、
小学生や中学生ならともかく、それを大人が楽しむにはちと無理が。
多彩な登場人物がそれぞれ十分魅力的に描かれているので、
何も彼らが苦戦必至の強敵と戦い続ける必要はなくて、
ゼロ幕の横浜編みたいな、ちょっとした勧善懲悪エピソードの読み切りがいいです。
一方で「剣客商売」の方は、主人公の秋山小兵衛と、
その妻のおはるは非常にキャラクターが立って魅力的なのですが、
惜しむらくは、他の登場人物の描写が弱くて魅力がないこと。
小兵衛の息子である大治郎が際たる例で、本来は小兵衛と相主役を張る立ち位置の筈ですが、
寡黙という性格設定を差し引いても、人となりや心理の描写が少なすぎて、
どんな人物なのかがぼやけてわかりません。
「小兵衛よりも強く、朴訥として無骨な青年」を描こうとしている意図はわかりますが、
つかみどころのない雰囲気のせいで、感情移入するのが困難です。
大治郎の妻である三冬も、結婚前のキャラクターは良かったのですが、妻になってからはさっぱり。
因みに、「剣客商売」では、田沼意次(三冬の父親)が思慮分別と大局観のある大人物に描かれています。
歴史上で評判の良くない人物について、作家はしばしば真逆の描写を試みることがあります。
他には、「樅ノ木は残った」の原田甲斐や、「キングダム」の始皇帝など。
キングダムに関しては、”嬴政”時代はまだしも、
”始皇帝”となってからの言動を名君として描くのは難しい、というか不可能でしょうか……。