巷では、「遺伝子組換え」食材は忌み嫌われているようです。
しかし「遺伝子組換え食材には、こういう問題がある」から嫌いなのだと、
明確に説明できる人はいないのではないでしょうか。
それ以前に、「遺伝子組換え」と「(古典的な意味での)品種改良」の違いを理解している人も多くないと想像します。
現在私達が食べている農作物は、おそらくほとんどが度重なる品種改良を経て現在に至っていると思います。
気候や病害虫への耐性、収穫量の増加など、人間を養うために必要な改良を加えてきたことで、
好きなものを好きな時に好きなだけスーパーで購入できるという、夢のような供給状況が実現している訳です。
「品種改良」とは、偶発的に人間に都合のよい特性を備えて生まれてきた個体同士を人工的に掛け合わせて、
その特性を安定的に継代できる品種を樹立することです。
この時の「偶発的変化」を担うのは、自然に起こる突然変異ですが、
その頻度は非常に稀で、しかも、生じた突然変異によって引き起こされる結果は多種多様です。
実際には、圧倒的多数を占める結果は「何も変化なし」です。
一方で、ある個体には生存に支障を来すようなマイナス効果が出るでしょうし、
中には、人間に都合の良い変化を遂げた個体が現れることもあります。
「品種改良」では、突然変異の発生率と、それによって引き起こされる結果を完全に自然任せにしているので、
効率が非常に悪く、手間と時間がかかります。
一方で「遺伝子組換え」では、遺伝子への突然変異を人工的に起こさせます。
方法は、以下のように二つあると思います。
一つ目は、ランダムではあるが高頻度に突然変異を誘発する薬剤で処理をした上で、
その結果生まれてくる様々な突然変異体から、好ましい変化を遂げた個体を選択するというもの。
もう一つは、ある遺伝子を操作すれば好ましい変化が生じることが予想されている場合に、
その遺伝子を狙って、人工的にピンポイントで組換え(変異)を起こさせるというものです。
つまり、「品種改良」と「遺伝子組換え」の違いは、突然変異を起こさせる手段が異なるだけで、
「遺伝子の配列が変化する」という結果に関しては、なんら違いはありません。
この原理を理解した上で、まだ「遺伝子組替え」を批判する要素があるとすれば、
「品種改良」では稀にしか起こらない筈の突然変異を、「遺伝子組換え」では人工的に高頻度に起こしているのだから、
目的以外の突然変異も生じてしまって、予期せぬ悪影響が出る可能性があるのではないか、という点です。
これは、「遺伝子組替え」の一つ目の方法を取った場合には、無視できない要素になります。
しかし、現在では科学技術が発達していて、個体の全ゲノム配列を比較的簡単に読んでしまうことができます。
遺伝子組換えの前後の各個体で全ゲノム配列を比較すれば、どこにどんな変異が起こったかを全て把握することができるのです。
また「遺伝子組換え」の二つ目の方法(ピンポイントで変異を起こさせる)の場合、
狙った遺伝子以外に変異が入ってしまう確率はかなり低くなります。
もっとも、「『品種改良』において、好ましい変異だけではなく、二つ目の予期せぬ変異が同じ個体内で起こってしまう可能性」と比較して、
どちらが低いのかはわかりませんが、
念のため、やはり全ゲノム配列をチェックして突然変異の結果を確認しておけば納得できるでしょう。
正しい知識を勉強することなく、無知だが何となく気持ち悪いという理由で「遺伝子組換え」という言葉を拒絶するのは賢明とは言えません。
遺伝子組換え食品を拒否して飢えるのは勝手ですが、
賢明でない同士が扇動し合うことで食料対策推進を妨げてしまい、我々にも被害が及ぶとすれば、いい迷惑です。